『さよならの森へ』感想

前置き

『さよならの森へ』(Atelier様)ネタバレあり・自PC成分強めの感想

 とても美しく、切ない物語でした。蝶に埋め尽くされる画面やPCの性格分岐など、細やかな演出でより物語に引き込まれていきました。
 普段はNextでプレイしているんですけど、試験的にpyへいつものPCたちを移植していたのでそちらでプレイ。移植ちょっと面倒なんですけどやっててよかった……! 推しコンビ推しカプがいるならぜひやってください後悔はしない。

 ストーリーだけでなく、画面構成や演出もとっても繊細で美しい……!序盤の雨のシーン一つとっても、叩きつける雨の音、傘に弾かれて少し遠くなった雨の音……と、とても細やかに丁寧に演出が構築されていた印象です。まるで自分も物語の中にいるような没入感でした。

自PC紹介

PC1:リアーネ(リーダー/魔術師あるいは魔女・星詠み)
PC2:アルフレド(参謀/魔術師・魔法剣士)
※普段は六人PTで活動
※二人は恋人同士。ちなみにこの参謀、_病的な恋である
こちらの冒険者紹介も見ていただけるとよりわかりやすいかと思います。

リアーネ主人公・敵対ルート

 最初に敵対ルートをプレイしたのですが、仲間同士の戦闘、仲間同士だからこその駆け引きがとても格好良くてテンション上がりました……!
 リアーネが碧眼なので反応あって嬉しい。花屋の老紳士は本当に紳士でした。優しさがしみる……

 アルフレドは冷淡なやつだよなあと「振り払う」を選んだので敵対ルート。
 後衛のリアーネに対して容赦がなさすぎる前衛参謀。記憶戻った後頭抱えてそう。お前が怪我させてどうする。

 両者とも策士型で魔術師なので似てる部分も多いんですが、リアーネはお人よしなのに対しアルフレドはひねくれ者なので根底が正反対。だからこそアルフレドはリアーネが眩しいような鬱陶しいような、でもやっぱり心配になって気にかけてしまう。なので
「これが俺だ。他者を傷つけることに何も感じない」
「……お前のような人間を、そばに置いていたとは思えない」
「もう分かっただろう? だから、お前も忘れてしまえ」
がめちゃくちゃはまって……! 知らないはずの彼女が嘘も敵意も持っていないとわかっているからこそ遠ざけたくなる。

「貴方が失ったものが、貴方にとって何だったのか。それは私にもわかりません」
「貴方の言う通り……貴方には必要のないものだったのかもしれません」
「でも、それは他の誰でもなく、貴方自身が決めることですから」
「取り戻したものが不要なものだったなら、その時に貴方の手で捨ててください」
 届かないと分かっていてもこう返せるリアーネ格好いい! 本当にこの一幕が格好良くて好きです。
 繊細なお嬢さんに見せかけて割と図太く強かなリーダー。こういうところにうっかり惚れてしまった参謀。

 あれだけ突き放すようなこと言っておいて最後に「お前に出会って、慈しんでよかった」で膝から崩れ落ちるしかなかったです……
 台詞のひとつひとつが美しくきらめいていて、もうプレイヤーが何言っても無粋な気がします。蛇足にしかならない。

「忘れ難いものがあるとするなら。美しいものがあったとするなら」「この世に、永遠があったとしたのなら」「俺は、お前に出会った日を思う」
「手放した方が楽に生きられるとわかっていても、手放せないものだ」
 アルフレドはある目的のために冒険者になり、その目的のためだけに生きてきたんですが、リアーネに出会って盛大に予定が狂ったのでラストの「お前にさえ出会わなければ……こんな感情を抱くこともなかったんだろうな……」がめちゃくちゃ刺さりました。仲間を持つつもりなんて、ましてや誰かに恋をするつもりなんて一切なかったのに。失ったままでも生きてはいけたのに、どうしても気になって森まで来てしまった。

 ちなみに主人公運ぶシーンは「抱き上げる」にしました。そろそろイチャついてほしくて……その後の「可愛い寝顔だったよ」発言もお前……お前……とことん格好つけていくな……。
でも内心めちゃくちゃ落ち込んでるし荒れてるので、リューン帰ったら同PTの盗賊と剣士巻き込んでやけ酒かっくらってそう。健康に悪い。

アルフレド主人公・協力ルート

 参謀が記憶喪失の場合、リアーネに特別優しいだけで、知らないやつには素っ気ない(というか警戒する)ので「振り払う」を選び敵対ルートに行きましたが、リアーネは優しいので見ず知らずの人にも傘を差し出すでしょう、ということで協力ルートへ。
 こちらではちゃんと相手との関係性を伝えられるんですね。実は悲観的なアルフレド、(これ絶対不審者だと思われるだろ……)と思いながら打ち明けたんでしょうが、当のリアーネはあっさり信じるしなんだか楽しそうだしで参謀の情緒は早くもめちゃくちゃです。内心(疑え! 警戒しろ!)って叫んでそう。実際そうされたら「そりゃ当然だろう」と強がりつつ落ち込みまくるでしょうが。(俺のこと知らないくせに、優しくするなよ)と思いつつ、(でも誰にだって優しさを向けられるやつだもんなぁこのお嬢さん……)と落ち込んだりキレたり拗ねたり忙しい。
「お前、この状況を面白いと思ってないか?」
「まさか」「鋭いですね」
 普段はアルフレドがリアーネを揶揄い振り回しているので、立場逆転だ!とプレイヤーははしゃぎました。ごめんアルフレド。
「そんな顔をしなくても、何処かに行ったりはしませんよ」
 普段ハッタリもどうどうとかます参謀がこんなこと言われちゃってる……よっぽど不安そうな顔してたんだろうな……。不安を見抜かれてしまって落ち着かない反面、でもやっぱり〝これまで一緒に冒険してきたリアーネ〟だからなのか?と縋りたくもなってしまう。
 翌日、依頼人の家に行って調査するシーンも、一方が何か言えばもう一方が即座に返し、打てば響く様な関係性が見えて切なくなります。記憶を失った側にとっては、初対面なのにスムーズに会話が進んでちょっと不思議に思っていたりするのかもしれません。

 恋人同士のPCたちでプレイしていたので、バザールのシーンは「デートだ……!」とプレイヤーがはしゃいでしまいました。アルフレドはそれどころじゃない。なんでこいつ観光楽しんでるんだ?
「やさい炒めになれるマンドラゴラ図鑑」料理上手で魔女なリアーネが読んでいると洒落にならない。本当に作りかねないな……と恐々とするアルフレド。
 秀麗なリアーネが花束持っていると、似合うわ目立つわでそりゃ騒がれますよね。花束なんて買ってきたのは「今気になる人とデート中なんです」「じゃあこれお勧めだよ!」みたいなやり取りがあったのかな……と勝手に想像してしまいました。とてもかわいくて和みました。アルフレドはそれどころじゃない(二回目)。普段ならともかく、記憶を失って自分を知らないはずのリアーネが何考えてるかわからなくて、とりあえず一旦他人のフリをしそう、ということで「見なかったことにする」アルフレド。逃げられるはずがなかった。めちゃくちゃ振り回されている。でもリアーネは全部わざとなんですよね……。

 「うつくしい日だった。きっと。」
 この一文がもうとても切なくて……リアーネは雨夜の時からアルフレドに惹かれるものがあって協力するけれど、アルフレドはどうしても「自分と一緒に過ごしていたリアーネ」を追い求めてしまって、一緒にいるけれどその距離がとても遠く、すれ違ってしまうのが何とももどかしく、切なかったです。
 
「……貴方は、ここにいない恋人のことばかり考えているな、と思いまして」
「今は少しうらやましいほどです。そのお嬢さんが」
「貴方の見ていた私と、ここにいる私が同じだと、貴方は本当に言い切れますか?」
 リアーネはずっと憂いを隠せないアルフレドが心配で、色々振り回してみるけれど、やっぱり少し手が届かない。それほどまでに〝リアーネ〟が大切にされているとわかるから、後の夕焼けの時計塔のシーンでの台詞につながるんですね。

「ここにいない恋人って……お前のことだろ」
「お前は、お前だろ?」
 彼女の気遣いがわかってしまうから余計に苦しくなるけれど、でもやっぱり〝リアーネ〟なんじゃないかと叫びたくもなるアルフレド。彼女の全てを知っている訳じゃないし、この言葉じゃ届かないかもしれないけれど。

Q.リアーネを忘れたアルフレドはどうするんですか?
A.アルフレドは忘れたことさえ忘れて一人でどこか行こうとするけど、リアーネが忘れないし離しませんよ!(要するに敵対ルートです)

 両ルートで同行者が真っ先に思い出しかけるのが「――は死なせない」という己の声なのは、それだけ相手が死にかけたことが心に強く刻まれていたからでしょうか。
 この辺りは二周して気づいたのですが、本の合言葉を並べる時点で既に「ペルスネージュ」という単語は出ていたんですね! 聞き込みの時話を聞ける女性は「結婚祝いの花を買わないと」と言っていましたが、この女性が依頼人に花を贈った友人なのでしょうか。本当に細やかで丁寧な演出だなと驚きました。

 一旦別れた二人が合流する夕焼けの時計塔のシーンがとても美しくて、悲しくもあって……
「だから、言いたくはありませんでした。貴方が私の前から消えてしまう気がして」
「実の所、それが正しいのか間違いなのかなんて、私にとっては大切ではなかったんです」
「貴方の言っていることが本当だったらいいと、思っただけでした」
「きっと私は、貴方のことが好きだったんでしょうね……」
 どうして他人の俺にそこまでするんだと問うアルフレドに、こんな答えを返すリアーネ。記憶を失ったリアーネにとってアルフレドと過ごした時間はほんの僅かで、それでもこんなセリフを言えるほど惹かれるものがあったのは、アルフレドが今までリアーネのことを本当に慈しんで、まっすぐ見つめ続けていたからこそなんだろうな……良かったねアルフレド、ひねくれ者なりに頑張って……。プレイヤー兼PCの親としては「これ告白も同然では……!?」と大騒ぎしていました。その直後大変なことになりましたね……
 自分がリアーネの前から消えれば、彼女は助かるかもしれない――そんな可能性があっても、「忘れることはできない」と即答できるアルフレド。自分の人生(いい意味で)滅茶苦茶にされてるし、今更手放せるか。

「やはり違うんです、アルフレド。貴方に出会わなかった、私では……」
「貴方がいなければ、何の意味もありません。私は、貴方に会いたかったんです……」
 バザールの時は「ここにいない恋人を~」と言っていたリアーネが、「この方は私の恋人ですから」「返してもらいます」って助けてくれるのが最高です! 
 前回の感想でも少し書きましたが、アルフレドはある目的のために冒険者になり、そのために研鑽を怠らず、戦闘経験を積むために単独での依頼も結構受けてます。参謀という役割柄、仲間たちのために裏でいろいろ手を回してたりもするので、リアーネとしては自分を頼ってほしいし、追いかけないと本当にどこか行ってしまいそうだなと心配してます。なので追いかけます。冒険者なり立てのリアーネを、別の宿で経験を積んでいたアルフレドが補助する形でパーティを結成した二人でもあるので、本当にここの台詞が刺さります……。

 ……万事解決したかと思えばお片付けが残っていました。敵対ルートでは「可愛い寝顔だったよ」とちょっとキザな台詞を言うのに対し、協力ルートでは「逃がしませんよ、……と」と結構気迫のこもった台詞が聞けるのが、それぞれのキャラクターが出ていて面白かったです。協力ルートでは主人公はもちろん同行者側もどこか迷子になっていて、お互いがお互いを追いかけているような印象があったので余計に逃がして堪るか!となったんでしょうね……。アルフレドはふらっと書置き一つ残しどこか行ったかと思えば、怪我こさえて帰ってきたりするのでリアーネとしては本当に「逃がしませんよ!」です。
 

リアーネ主人公・END1~6+α

敵対ルート

 このルートのお別れエンドは、寂しいやら悔しいやらでプレイヤーがじたばたしてしまいます。END1では宿にすら帰ってこない相方。一日街で調べて自分の記憶がおかしいのには気づきつつも、「……お前のような人間を、そばに置いていたとは思えない」「もう分かっただろう? だから、お前も忘れてしまえ」だから完全に姿を消すんでしょうね……親父さんや娘さんも寂しがるでしょうに……
 END2で「……きっと、他愛のない、間違いだったのだろう」と語っているのも、どうしてそんな突き放そうとするんだよ! と頭を抱えてしまいます。ここはプレイヤーやPCにもよるんでしょうが、相方と戦うことに迷いを捨てられない主人公だから、自分のような人間と一緒にいるべきじゃないと名前を破り捨てるんでしょうね……

END5・6
 相方は記憶を取り戻すも時すでに遅く、主人公が記憶を失ってしまうエンド。協力ルートでも辛いですが、敵対ルートからこのエンドだと相方の精神がめちゃくちゃになりそう……
「もう一度会おうと言ったのはお前の方じゃかったか?」
 衝撃にも負けずに進んでいく相方の姿がもう既に苦しくて……何もない暗闇を垣間見て、伸ばした手は何も掴めない。END7の描写とリンクしていて泣きそうです。
 「他愛のない間違い」だったはずの名前を取り戻して、関係も思い出して、でもその人は自分のことを知らない。「奪われたものを返す」という約束は果たされたけど、本は白紙。
 蝶が力をほぼ失っていることを考えると、主人公が記憶を取り戻す可能性はかなり低そうな気がします。アルフレドは構わずリアーネと一緒に過ごすんでしょうが、お互い気に病んですれ違って破綻しそうな気がします。ゆっくり、緩やかに壊れてしまいそうな……辛いので即END7また見に行きました。
 

協力ルート

 気まぐれを起こしたアルフレドが、見知らぬ銀髪の少女に傘を差し出す協力ルート。
 絶対振り払われると思ったのに、傘を差し出されて困惑するリアーネ。その後宿で、
「貴方、この状況を面白いと思ってませんか?」
「まさか」「鋭いな」
 のやり取りもあって、(本当にこの人は……)と頭抱えていそうです。そういうところだぞ参謀。すごくたのしそう。「悪ふざけが過ぎた」の下りも、薄く笑いながら言ってそう。
 その後の「それに、」と言いかけたシーン、本当は「おまえみたいな恋人がいるんだったらいいな」が続いたんでしょうか。そう思うんだったらもう少し優しくしてあげて……彼なりにしてるのか……

 その後(プレイヤーが)待ちに待っていたデー……バザールです。
 言い伝えに依頼人祖母の手掛かりがあるかもと真面目に調べているリアーネの横で、「一獲千金! 地底王国の見つけ方」を読んでいるアルフレド。「アケロンの渡し」で火薬くすねようとしたPCなので妙に似合っていて笑ってしまいました。
 更には花束抱えてくるアルフレド。訳もわからないまま素直に受け取ってしまうリアーネ。何をどうすれば花束を貰う(あるいは買う)事になるのか。

「……お前は、ここにいない恋人のことばかり考えているな、と思って」
「今は少しうらやましいよ、その青年が」
 同じセリフなのにアルフレドが言うとより切実というか、重く聞こえます。飄々と何気ない様子で言ってるんでしょうが、裏側にはアルフレド本人にも言葉にできない寂しさを抱えていそう。

「お前に出会った俺と、お前に出会わなかった俺は、きっと違うよ」
「私の知ってる、ただのアルフレド・ヘルシングです」
 実際アルフレドはリアーネとの出会いで大きくルートが変わってしまうキャラなので、違う人間と言えるんですが、リアーネとしてはこう答えるしかない。
 冷たいように見えて、意外と(リアーネには)細やかに気遣うアルフレドなので、むしろ記憶がないのにある時と同じようにしてくれるからリアーネの方も心苦しくなっていそうです。

「だから言いたくなかった。お前が、俺の前から消えてしまう気がして」
 黄昏の時計台で、子どものようにつぶやくアルフレド。(いつか目的のために一人になるから)仲間なんていなくていいと嘯きながらも、本当は誰よりもずっと「誰か」を求めていたキャラなのかな……と感じたワンシーンです。CWはこうして自PCに設定が生えていくところが面白いです。勝手に受信しているだけなんですが。

 「信じるか信じないか」でも、「正しいか間違いか」でもなく、「本当だったらいいなと思った」で行動を共にしてきたアルフレド。普段は情に流されず論理的に思考する参謀なので、「あんな真っすぐな目で俺を見てくれる恋人がいたのだとしたら……」「いいなって思ったんだよ」が男女カプ思考的にはとてもおいしいんですがちょっと重い。同じセリフでも、リアーネが言っていたときはそっと願うような響きだったのに、アルフレド(ひねくれ者、病的な恋)が言うと途端に質量を増して……重い……。でもずっと大切にしあえる誰かを求めていたんだろうな……
 
END4
 呪いに侵されたアルフレドの為に、立ち去ることを決めたリアーネ。思い出を失くせないまま、リューンにも帰らず過ごすんでしょうか。
 ひっそり置き去られた(あるいは返された)花束と、埋められない空白。
 「あのお嬢さんは!」と必死に叫びながらも、その瞬間にも記憶は零れ落ちて「誰か」を思い出せないアルフレド。呆然とした顔でぽろぽろ涙を零していそうです。
「誰かの顔が見たかった」「笑う顔? 驚く顔? 呆れる顔?」
 記憶がないからどんな反応をするかわからないけれど、わからないなりに知りたくて花束を用意してたんでしょうか。急にかわいいことする……主人公が花束を置いていったのは、どちらにとっても最後の贈り物だからでしょうか。
「たとえまた誰かに出会って。その誰かをまた好きになったとしても」「この胸の空白が、埋まる事は永遠にないだろう」
 このモノローグが本当に切実な告白で苦しいです……アルフレドの場合、新しい恋もできそうにないです。埋まらない空白を忘れることもできなくて、延々彷徨っていそうな……辛いのでEND7見に行きました。



 色々なルートを通り、すべてのエンドを回収した最後に相方がもう帰ろう、と迎えに来てくれるのも嬉しかったです。
 余談ですが「お嬢さん」呼びがとてもストライクでした。アルフレドは冒険者としてお人よしがすぎるリアーネを揶揄う様な響きをさせつつ、何だかんだその優しさを慈しんでの「お嬢さん」呼びをしてそうだなぁ……と。
 本当に切なく、美しいシナリオでした……。PCたち、そして依頼人さんと青年に幸あれ!

「お前には、失くしたくないものはあったか?」
「……その答えなら、もうとっくの昔に出していましたよ」
 人生をかけた目的のために一人飛び出した貴方を、余計なお世話だとわかっていても追いかけずにはいられなかったあの時です。