今は割れた空の下

『いつかどこかの、夢の終わりに』『夢幻の彼方』(制作:無名し様)FA


 ふと、夢なんじゃないかと思った。フォルドを出た朝にも、彼と初めて出会った夜にも、こんな日が来るなんて想像もできなかったから。
「それで、ジャックのやつが……なに笑ってるんだ、リアーネ」
 振り向いたアルフレドが訝し気に問う。無意識なのか、繋いでいた手に力が籠る。それがくすぐったくて頬が緩んだ。
「何でもないですよ」
 手を握り返して笑う。ずっとこんな日が続けばいい――そんな他愛もない願いは、胸の奥に仕舞った。

「……あ」
 ふっと意識が浮上して、瞼を開ける。青い羽根の精霊がじっとこちらを見ていた。
「目が覚めましたか。……随分魘されていましたよ」
 淡々としているようで、気遣いの籠った声だった。今はもうただひとりの旅の供は、結構心配性なのだ。
「昔の夢を、見ていました。冒険者だった頃の夢です」
 あの人の声も、まなざしも、もう朧気だった。すべては遠い空の下で喪ってしまった。他ならぬ、私のせいで。
「行きましょう、時渡り。やはり、あの方法しかありません」
 気怠い身体を起こして立ち上がる。傷だらけになってしまった杖を握る。ふわりと精霊が私の肩に留まった。
「本当に、いいのですか」
「ええ。もう決めました」
 あの時間が消えてしまっても構わない。それであの人が生きてくれるのなら、それだけのために――
「私は、私を殺します」
 すべてはやはり夢だったのだ。だからどうか、〝リアーネ〟なんて忘れてほしい。
[割れた空の下]

「――フレド、アルフレド!」
「ねえちょっと、大丈夫!?」
 今にも泣きだしそうな二つの声で目が覚めた。瞼を上げれば、すぐそこに少女が二人。
「レティリア、パティル。……悪い、昔の夢を見ていた」
 少女たちの顔がほっと緩む。その頭を撫でてやりながら、体を起こした。
 ――あれは、まだ六人で冒険をしていた頃のことだ。あの時、彼女はどうして笑っていたんだろう。何だっていいから聞けばよかった。どんなにくだらなくても、ささやかでも知りたかった。
「アルフレド、大丈夫?」
「随分険しい顔をしているわ。どこか具合でも悪いんじゃ……」
「大丈夫だよ、二人とも。……ほら、先に戻っててくれ」
 あまり納得してなさそうな二人の背を押し、送り出す。何でもない顔を作るのに、もう少し時間がかかることはわかっていた。
「俺はそれでも、お前のところに行くよ。リアーネ」
「……リアーネ」
 ただ一つの名前を呼ぶ。忘れてなるものか。たとえすべて消えても、夢幻になんてさせるものか。――たとえ彼女が世界を滅ぼすのだとしても、その先へ。