意地っ張りの攻防

 空から見ても、リューンは賑やかで騒がしい。雑多な建物が詰め込まれ、絶え間なくひとが――人間も、人間以外も――行き交う。その中に見覚えのある姿を見つけ、リアーネは路地に箒を降下させた。
「どうだ、いたか?」
 こちらに気づいたアルフレドが足を止める。箒に腰掛けたまま、リアーネは首を横に振った。
「見当たりませんね。どこかお店に入っているのかもしれません」
「……まったく、あいつと来たら。午後は依頼に備えて会議だって言ったのにな」
 くまなく街を見て回ったが、いつも派手で快活な仲間(ステファノ)の姿はなかった。ため息をついたアルフレドは、すっと右手を差し出してきた。
「ほらリアーネ、降りてこい」
「……はい?」
 きょとん、と掌を見つめること数秒。その意味に気づいたリアーネは赤面し、捲し立てた。
「も……もう! 貴方は本当にひとを揶揄うのが好きですね!」
「そんな事ないぞ?」
「あります真面目腐った顔して! わざとらしいですよ」
 リアーネは、羞恥を振り払うようにいつもより勢いをつけ、箒から降り立った。――その途端、かくんと足首が曲がり、体が大きく傾く。
 刹那、思い出したことが二つ。一つめ――この路地は古く、煉瓦の凹凸の差が大きかった。二つめ――新調したばかりの靴は、前のものよりちょっとだけヒールが高かった。痛みと衝撃に備え、目を瞑った瞬間だった。
「おっと、言わんこっちゃない」
 思いの外力強い腕に抱きとめられる。勢いよく飛び込む形になってしまったことに気づき、かっと全身が熱くなった。
「あ、りがとう……ございます」
「どういたしまして。意地張らなきゃ良かっただろ?」
 リアーネが口ごもりながら言うと、なんだか上機嫌そうな声が返ってきた。おそるおそる見上げた彼の顔はすましているようで、唇の端が僅かに持ち上がっている。その表情にどきりと心臓が跳ねて、リアーネは慌てて目をそらした。目を合わせてしまったら、まずい気がする。――その時、視界の端にそうっと路地を抜けだそうとする探し人の姿が写った。
「……いた! 確保します!」
「えっ何でだよオレ何もしてねぇじゃん!?」
「うるさいですね大人しくしなさい!」
「おい、また転ぶぞ」
「転びませんよ飛ぶので!」
 助走をつけて箒に乗り、なぜか逃げようとする仲間を追って翔け出す。背後から盛大なため息が聞こえたのは、きっと気のせいだ。


《攻め/受けが悶々するお題》
高い場所から降りる際、下にいるアルフレドが手を貸そうとしてくれたのを、照れて断ったリアーネ。しかし結局は足を滑らせてアルフレドの胸に飛び込んでしまい、手よりも遥かに大胆な触れ合いが生まれてしまった。
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